こんにちは、ももじりです。
今回は、以前紹介した「データ栄養学はこう読む」の姉妹本にあたる書籍のレビューです。
まだ、前書を読んでない人はこちらからどうぞ。
佐々木敏の栄養データはこう読む! レビュー!根拠に基づく栄養学
本書は、前書よりもスケールの大きな視点で食と健康について向き合っています。
今回も、著者である佐々木さんの提唱するEBN(科学的根拠に基づく栄養学)が、世間の食と健康に関する真実を炙り出します。
「佐々木敏のデータ栄養学のすすめ」書籍データ
書籍データ
項目 | データ |
---|---|
出版社(発行所) | 女子栄養大学出版部 |
初版発行日 | 2018年2月10日 |
ジャンル | 食事・栄養・健康 |
ページ数 | 367ページ |
目次 |
|
専門性 | |
読みやすさ |
こんな人にオススメ!
- 食と健康について知りたい
- 栄養データの見方を知りたい
- 巷にある情報との真実のギャップを知りたい
データ栄養学のすすめの著者
佐々木 敏 (ささき さとし)
東京大学大学院医学系研究科社会予防疫学分野教授。
女子栄養大学客員教授。
京都大学工学部、大阪大学医学部卒業後、大阪大学大学院・ルーベンス大学大学院博士課程修了。
医師、医学博士。
国立がんセンター研究所支所、国立健康・栄養研究所などを経て現職。
いちはやく「EBN」を提唱し、日本人が健康を維持するために摂取すべき栄養素とその量を示したガイドライン「食事摂取基準」(厚生労働省)策定に貢献。
日本の栄養疫学研究において、中心的役割を担い続ける。
著書に「わかりやすいEBNと栄養疫学」「食事摂取基準入門ーそのこころを読む」(共に同文書院)ほか。
引用:佐々木敏(2018年2月10日)
『佐々木敏のデータ栄養学のすすめ 氾濫し混乱する「食と健康」の情報を整理する』
発行:女子栄養大学出版部
「佐々木敏のデータ栄養学のすすめ」のここが面白い
前書の魅力をそのまま引き継いでいます。
おさらいとして、見てみましょう。
問いかけと結論のスタイルは健在
メインの進行スタイルです。
自分たちにも関係の深い身近な問いかけの数々。
これが、読者の当事者意識を芽生えさせます。
お酒、野菜摂取、減塩…
気になるワードで、関心をくすぐります。
そして、結論も優しいんです。
本書は、科学的根拠を非常に重じています。
強い断言をせず、偏った考えに陥ることに細心の注意を払ってくれています。
強い言葉で断言したり、トリッキーな言い回しをすると、読み手としては面白いです。
しかし、それは「事実を正確に伝える」という最重要項目を見失った、発信者のエゴが含まれた言い回しになってしまいます。
著者の佐々木さんは、冒頭でこのように語っています。
本書の執筆にあたって、読みやすさ、わかりやすさと科学的な正しさの両立を目指しました。
科学性を重んじると読みやすさが犠牲になり、読みやすさを優先すると科学性がおろそかになりがちです。
ぎりぎりのバランスに挑んだつもりです。
引用:佐々木敏(2018年2月10日)
『佐々木敏のデータ栄養学のすすめ 氾濫し混乱する「食と健康」の情報を整理する』
発行:女子栄養大学出版部
データで見るリアルと世間とのギャップ
今回も論文由来のデータが豊富に掲載されています。
データは、冷静で客観的に物を語ります。
様々な先入観を、簡単に覆すパワーを持っています。
世の中のリアルを肌で感じることができます。
統計学や疫学研究に関する専門用語の補足が多く、本書を読み進めると、データを読み解く感覚が磨かれます。
歴史や地域から繋がる食の背景
各章の冒頭は、歴史や世界各地の食にまつわる話が展開されます。
現在の食習慣に繋がる「背景」が紐解かれます。
この展開が、非常におしゃれで一気に引き込まれます。
「佐々木敏のデータ栄養学のすすめ」のここが面白い
ここでは、本書で登場する個人的に面白かったトピックを挙げていきます。
本書では栄養データはもちろん沢山登場しますが、「時代や社会」と「食」との関係も非常に魅力的な要素の一つとなっています。
権威性の罠
エピソード
16〜18世紀イギリスで、ビタミンCの不足による壊血病が猛威を奮っていました。
命をも脅かす病気です。
当時の軍医であった、ジェームス・リンドはこの壊血病に対し、臨床実験にてオレンジとレモンが有効だという事実を示しました。
しかし、ジェームスはそのメカニズムを示すことはできず、壊血病の解決には至りませんでした。
そこから200年近く、人類は壊血病に苦しみます。
答えに半分手をかけているにもかかわらず。
その後、医学界では多くの著名人が原因を唱えます。
この著名人とは、他の分野では功績を上げていますが、壊血病の研究に専門的に取り組んでいた訳ではありません。
しかし、権威性が高く、声が通ったのです。
そして、それらの推定原因は全て誤りでした。
著者は、現代でもこの状況はあり得ると言います。
最近では、食や健康に対する世間の意識が高まりつつあり、ポピュラー栄養学と呼ばれる書籍があります。
それらを執筆しているのは、必ずしもその道の専門でない場合があります。
本業ではない人の書籍でも、「著者自体の人気や権威性」に由来して売れていきます。
「正しいから権威ではなく、権威だから正しい」
この考え方は一見に理にかなっているように見えて、危険かもしれません。
胃がん減少に貢献したのは電気屋さん
意味不明ですね。
どういうことでしょうか。
エピソード
胃がんの発症率について研究で、食塩に因果関係があることが示唆されています。
単に食塩が原因とは言えず、塩辛い食品から摂取する食塩での胃がん発症が多いとのこと。
漬物、タラコ、スジコ、干物・塩蔵魚などが疑われました。
食品を塩蔵保存する必要がありました。
しかし、本書のデータによると、日本では1960年をピークに胃がんの死亡率と発症率は減少傾向にあります。
その時代に急速に普及したのが、家庭用冷蔵庫です。
冷蔵庫の普及により、食品を塩蔵保存する必要がなくなったのです。
もしかしたら、胃がん減少に最も貢献したのは、お医者さんではなく、電気屋さんかも?という話。
データは本当に思わぬ結果を見せてくれます。
赤身肉は避けるべきか??
エピソード
近年の研究によると、赤身肉に発がん性(主に大腸がん)が見られるという見解が報告されています。
では、赤身肉は避けるべきか?
たしかに、赤身肉の危険は事実です。
しかし、大腸がんのリスクを持つ要因を横並びしてみます。
がんの原因
- 飲酒
- 喫煙
- 糖尿病
- 肥満
- 運動不足
これらが、総合的に絡み合って発症に至ります。
「もう肉は食べない」
などと、極端な決意をする前に、その他の要因に対してできることがないかを考えましょう。
「佐々木敏のデータ栄養学のすすめ」 まとめ
本書は、食と健康について、これでもかというくらいにエビデンスを持って畳みかけてきます。
読み終える頃には、自分が思っていた一般常識とかなり隔たりがあったことに気づかされます。
それくらい、情報量は多くなっていて、取捨選択が難しい世の中になっているのです。
ゆえに、現代はビッグデータ時代と言われています。
様々な行動に記録がつき、データが収集されています。
本書では、最終章のまとめでこのビッグデータ時代に生きる僕たちに、とても大切なメッセージを伝えてくれています。
これは、ぜひ本書を手に取り、ご自身で読んでみてください。
前書でも述べていましたが、佐々木さんは本書の主人公は論文達だと言っています。
数々の見えづらい真実を見せてくれる英知の結晶。
それが、研究者達の論文です。
本書に登場するデータは、僕らが普通に生きていて、まず一生見ることないデータかもしれません。
そんな、人類にとって貴重な財産に簡単に導いてくれる一冊です。
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